宝島 Treasure Island Robert Louis Stevenson
1 ベンボウ提督亭の年老いた船乗り
大地主のトレローニーさんやお医者さんのリバシーさんやその他の偉い人たちが、僕にそうするように言ったんだ。宝島のことをはじめから終わりまでなにもかも書いておくようにって。ただしまだ埋められている宝物があるかもしれないから、島の位置だけは隠しておくようにともね。そこで僕はペンをとって、今は西暦17 ××年だけど、僕の親父がベンボウ提督亭っていう宿屋をやってて、日に焼けた刀傷のある年老いた船乗りがその宿に泊まった時までさかのぼることとしよう。
大地主のトレローニーさんやお医者さんのリバシーさんやその他の偉い人たちが、僕にそうするように言ったんだ。宝島のことをはじめから終わりまでなにもかも書いておくようにって。ただしまだ埋められている宝物があるかもしれないから、島の位置だけは隠しておくようにともね。そこで僕はペンをとって、今は西暦17 ××年だけど、僕の親父がベンボウ提督亭っていう宿屋をやってて、日に焼けた刀傷のある年老いた船乗りがその宿に泊まった時までさかのぼることとしよう。
80日間世界一周
第一章:フィリアス・フォッグとパスパルトゥーが主従契約を結ぶこと
時は千八百七十二年、フィリアス・フォッグという人がバーリントン・ガーデンズ・サヴィル街七番地に住んでいた。彼自身はいつも人目を避けるようにしていたのだろうが、彼はリフォーム・クラブのメンバーの中で注目に値する人物であった。フィリアス・フォッグは、上品なふるまいをする紳士であるという以外にはほとんど分からないことだらけという、なぞめいた人物であった。人々は「彼は詩人バイロンにそっくりだ。少なくとも、彼の頭はまるでバイロンのようだ。」と噂していた。もっとも、彼はひげを生やしており、穏和で、千年生きていても年をとらなかったバイロンのようであった。
時は千八百七十二年、フィリアス・フォッグという人がバーリントン・ガーデンズ・サヴィル街七番地に住んでいた。彼自身はいつも人目を避けるようにしていたのだろうが、彼はリフォーム・クラブのメンバーの中で注目に値する人物であった。フィリアス・フォッグは、上品なふるまいをする紳士であるという以外にはほとんど分からないことだらけという、なぞめいた人物であった。人々は「彼は詩人バイロンにそっくりだ。少なくとも、彼の頭はまるでバイロンのようだ。」と噂していた。もっとも、彼はひげを生やしており、穏和で、千年生きていても年をとらなかったバイロンのようであった。
自由か著作権か?リチャード・ストールマン 著
むかしむかし、印刷機の時代に、執筆と出版のビジネスのために1つの産業上の規制が確立されました。それは著作権と呼ばれました。著作権の目的は、執筆された書き物を広範囲に出版することを奨励するということでした。そして著作権の方法は、最近の著作物を再版する場合、出版社が著者の許可を必要とするというものでした。
デザインとリサーチ ---Design and Research---Paul Graham, January 2003.
外国人はよく驚くのだが、アメリカ人は会話の初めに「どんなお仕事をなさっていますか」と尋ねることがとても多い。私はこの質問は好きじゃない。うまい答えを思い付いたためしがないんだ。でも最近、ついにこの問題は解決をみた。誰かが私が何の仕事をしているか尋ねたら、その人の目をまっすぐ見て「Lispの新しい方言を設計しています」と言うことにしたんだ。この答えは仕事を聞かれるのが好きじゃない人にはお勧めだよ。会話はあっという間に別の話題に移るだろうからね。
タイムマシン The Time Machine ハーバート・ジョージ・ウェルズ 著
時間旅行者(と便宜上呼んでおく)はわれわれにとっては難解な事柄を述べ立てていた。その灰色の目は輝き、きらめいて、そしていつもは青白い顔も紅潮して生き生きとしている。火が明るく燃え、銀の百合の中の白熱光からの柔らかい放射が、われわれのグラスの中をきらめきながらたちのぼるあぶくをとらえている。われわれの椅子は、かれの発明品なので、単に漫然と座られるにとどまらず、われわれを包み込み愛撫して、そこにはあの思考が厳密性の束縛を逃れて優雅に奔走する、晩餐後の豪華な雰囲気があった。そしてかれは――論点を細い人差し指で印しつつ――われわれが座ってこの新しいパラドックス(とわれわれが思ったもの)についてのかれの真剣さと活力について、怠惰に感嘆するのを前に、このようにして説明してくれたのだった。
フランダースの犬(Dog of Flanders) ウィーダ
ネロとパトラッシュは、この世で二人きりでした。
彼らは、実の兄弟よりも仲のよい大の親友でした。ネロは、アルデンネ(訳者注ーベルギーの地名)生まれの少年でした。パトラッシュは、大きなフランダース犬でした。どちらも年は一緒でした。けれども、ネロはまだ若く、パトラッシュはもう年寄りでした。彼らは生きている間、ほとんど一緒に暮らしていました。どちらも両親を亡くし、非常に貧しく、同じ人の手で養われていました。初めて出会った時から彼らを結びつけたきずなーーそれは共感のきずなでしたがーーはあったのでした。そして、その共感のきずなは日を追う毎に強まり、彼らが成長するに従い成長し、しっかりと切り離すことができなくなりました。そして、ついには、お互い深く深く愛し合うようになったのでした。
彼らは、実の兄弟よりも仲のよい大の親友でした。ネロは、アルデンネ(訳者注ーベルギーの地名)生まれの少年でした。パトラッシュは、大きなフランダース犬でした。どちらも年は一緒でした。けれども、ネロはまだ若く、パトラッシュはもう年寄りでした。彼らは生きている間、ほとんど一緒に暮らしていました。どちらも両親を亡くし、非常に貧しく、同じ人の手で養われていました。初めて出会った時から彼らを結びつけたきずなーーそれは共感のきずなでしたがーーはあったのでした。そして、その共感のきずなは日を追う毎に強まり、彼らが成長するに従い成長し、しっかりと切り離すことができなくなりました。そして、ついには、お互い深く深く愛し合うようになったのでした。
マッチ売りの少女 ハンス・クリスチャン・アンデルセン作
ひどく寒い日でした。雪も降っており、すっかり暗くなり、もう夜 ―― 今年さいごの夜でした。この寒さと暗闇の中、一人のあわれな少女が道を歩いておりました。頭に何もかぶらず、足に何もはいていません。家を出るときには靴をはいていました。ええ、確かにはいていたんです。でも、靴は何の役にも立ちませんでした。それはとても大きな靴で、これまで少女のお母さんがはいていたものでした。たいそう大きい靴でした。かわいそうに、道を大急ぎで渡ったとき、少女はその靴をなくしてしまいました。二台の馬車が猛スピードで走ってきたからです。
独立宣言
人類の歴史のなかで、ある国民と他の国民を結びつけてきた政治的なつながりを解消し、世界の国々のなかで自然の法則と神の法則が与えてくれる、独立した対等な立場をとることが必要になる場合がある。その際に人類のいろいろな意見にきちんとした敬意をはらうには、分離へと駆りたてられる原因を述べなければならないだろう。
■ とにかく凄い「無料電子図書」
「無料電子図書」
こいつを最初に知ったとき、とても驚いた。
著作権切れの作品を公開しているサイトがあったなんて・・・
世の中には(インターネットには)様々な情報があふれている。今までは著作権の効果が切れたからって何だ?と思っていたけどインターネットに載せるとなるとその効果は計り知れない・・・と、思う。
古くなると質が悪くなるのではない、良いものはいつの時代も良いものです。
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古くなると質が悪くなるのではない、良いものはいつの時代も良いものです。
■ 著作権について
詳しい知識もない私が、ご覧下さっている方々に偉そうに言えることは何も無いので、すでに著作権について良くまとめられているサイトをいくつか紹介することにいたしました。そちらをご覧下さい。
当然、私もそれにそってこのカテゴリーに著作権切れ、又は再配布フリーの図書を載せてゆきたいと思っています。
当然、私もそれにそってこのカテゴリーに著作権切れ、又は再配布フリーの図書を載せてゆきたいと思っています。
アンデルセン童話集ハンス・クリスチャン・アンデルセン大久保ゆう訳
アンデルセン童話集ハンス・クリスチャン・アンデルセン大久保ゆう訳
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マッチ売りの少女
それは、ひどく寒いおおみそかの夜のことでした。あたりはもうまっくらで、こんこんと雪が降っていました。寒い夜の中、みすぼらしい一人の少女が歩いていました。ボウシもかぶらず、はだしでしたが、どこへ行くというわけでもありません。行くあてがないのです。ほんとうは家を出るときに一足の木ぐつをはいていました。でも、サイズが大きくぶかぶかで、役に立ちませんでした。実はお母さんのものだったので無理もありません。道路をわたるときに、二台の馬車がとんでもない速さで走ってきたのです。少女は馬車をよけようとして、木ぐつをなくしてしまいました。木ぐつの片方は見つかりませんでした。もう片方は若者がすばやくひろって、「子供ができたときに、ゆりかごの代わりになる。」と言って、持ちさってしまいました。だから少女はその小さなあんよに何もはかないままでした。あんよは寒さのために赤くはれて、青じんでいます。少女の古びたエプロンの中にはたくさんのマッチが入っています。手の中にも一箱持っていました。一日中売り歩いても、買ってくれる人も、一枚の銅貨すらくれる人もいませんでした。少女はおなかがへりました。寒さにぶるぶるふるえながらゆっくり歩いていました。それはみすぼらしいと言うよりも、あわれでした。少女の肩でカールしている長い金色のかみの毛に、雪のかけらがぴゅうぴゅうと降りかかっていました。でも、少女はそんなことに気付いていませんでした。
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マッチ売りの少女
それは、ひどく寒いおおみそかの夜のことでした。あたりはもうまっくらで、こんこんと雪が降っていました。寒い夜の中、みすぼらしい一人の少女が歩いていました。ボウシもかぶらず、はだしでしたが、どこへ行くというわけでもありません。行くあてがないのです。ほんとうは家を出るときに一足の木ぐつをはいていました。でも、サイズが大きくぶかぶかで、役に立ちませんでした。実はお母さんのものだったので無理もありません。道路をわたるときに、二台の馬車がとんでもない速さで走ってきたのです。少女は馬車をよけようとして、木ぐつをなくしてしまいました。木ぐつの片方は見つかりませんでした。もう片方は若者がすばやくひろって、「子供ができたときに、ゆりかごの代わりになる。」と言って、持ちさってしまいました。だから少女はその小さなあんよに何もはかないままでした。あんよは寒さのために赤くはれて、青じんでいます。少女の古びたエプロンの中にはたくさんのマッチが入っています。手の中にも一箱持っていました。一日中売り歩いても、買ってくれる人も、一枚の銅貨すらくれる人もいませんでした。少女はおなかがへりました。寒さにぶるぶるふるえながらゆっくり歩いていました。それはみすぼらしいと言うよりも、あわれでした。少女の肩でカールしている長い金色のかみの毛に、雪のかけらがぴゅうぴゅうと降りかかっていました。でも、少女はそんなことに気付いていませんでした。
メデューサの首
メデューサの首
小酒井不木
T医科大学の四年級の夏休みに、わたしは卒業試験のため友人の町田(まちだ)と二人で伊豆山(いずさん)のS旅館に出かけました。六月末のことで避暑客もまだそんなに沢山はいませんでしたから、勉強するには至極適当であったけれども、勉強とは名ばかりで、わたしたちは大いに遊んでしまいました。
あるいは東洋一と称せられる千人風呂(ぶろ)を二人で独占して泳いだり、あるいは三大湯滝に打たれたり、あるいは軽便鉄道の見える部屋で玉突きに興じたり、あるいは石ころばかりの海岸を伝い歩いて砂のないことを嘆いたり、あるいは部屋の中から初島(はつしま)を眺めてぼんやりしていたり、あるいは烏賊(いか)ばかり食わされて下痢を起こしたり、ときには沢山の石の階段を登って伊豆山神社に参拝したり、またときには熱海(あたみ)まで、月のいい夜道を歩いたりして、またたく間に数日を過ごしました。
小酒井不木
T医科大学の四年級の夏休みに、わたしは卒業試験のため友人の町田(まちだ)と二人で伊豆山(いずさん)のS旅館に出かけました。六月末のことで避暑客もまだそんなに沢山はいませんでしたから、勉強するには至極適当であったけれども、勉強とは名ばかりで、わたしたちは大いに遊んでしまいました。
あるいは東洋一と称せられる千人風呂(ぶろ)を二人で独占して泳いだり、あるいは三大湯滝に打たれたり、あるいは軽便鉄道の見える部屋で玉突きに興じたり、あるいは石ころばかりの海岸を伝い歩いて砂のないことを嘆いたり、あるいは部屋の中から初島(はつしま)を眺めてぼんやりしていたり、あるいは烏賊(いか)ばかり食わされて下痢を起こしたり、ときには沢山の石の階段を登って伊豆山神社に参拝したり、またときには熱海(あたみ)まで、月のいい夜道を歩いたりして、またたく間に数日を過ごしました。
恋愛曲線
恋愛曲線
小酒井不木
親愛なるA君!
君の一代の盛典(せいてん)を祝するために、僕は今、僕の心からなる記念品として、「恋愛曲線」なるものを送ろうとして居る。かような贈り物は、結婚の際は勿論のこと、その他は如何なる場合に於ても、日本は愚(おろ)か、支那でも、西洋でも、否(いな)、世界開闢(かいびゃく)以来、未(いま)だ曾(かつ)て何人(なんぴと)によっても試みられなかったであろうと、僕は大(おおい)に得意を感ぜざるを得ない。貧乏な一介の医学者たる僕が、たとい己(おの)れの全財産を傾けて買った品であっても、百万長者の長男たる君には、決して満足を与え得ないだろうと信じた僕は、熟考に熟考を重ねた結果、この恋愛曲線を思いつき、これならば十二分に君の心を動かすことが出来るだろうと予想して、この手紙を書きながらも、僕は、生れてから始めて経験するほどの、胸の高鳴りを覚えつゝあるのだ。君が結婚しようとする雪江さんは、僕もまんざら知らぬ仲ではないから、君たちの永遠の幸福を祈ってやまぬ僕は、こゝに君に向って恭(うや/\)しく恋愛曲線を捧げ、以て微意を表したいと思うのである。君は、僕のような武骨一点張りの科学者が、恋愛などという文字を使用することにすら、滑稽を覚えるかも知れぬが、然(しか)し僕は君の考えて居るほど「冷血」ではなく、多少の温かい血は流れて居るつもりだ。流れて居ればこそ、君の結婚に対して無関心では居られなくなり、頭脳を搾って、縁起のよかるべき名をもった、この贈り物を考え出したのである。
小酒井不木
親愛なるA君!
君の一代の盛典(せいてん)を祝するために、僕は今、僕の心からなる記念品として、「恋愛曲線」なるものを送ろうとして居る。かような贈り物は、結婚の際は勿論のこと、その他は如何なる場合に於ても、日本は愚(おろ)か、支那でも、西洋でも、否(いな)、世界開闢(かいびゃく)以来、未(いま)だ曾(かつ)て何人(なんぴと)によっても試みられなかったであろうと、僕は大(おおい)に得意を感ぜざるを得ない。貧乏な一介の医学者たる僕が、たとい己(おの)れの全財産を傾けて買った品であっても、百万長者の長男たる君には、決して満足を与え得ないだろうと信じた僕は、熟考に熟考を重ねた結果、この恋愛曲線を思いつき、これならば十二分に君の心を動かすことが出来るだろうと予想して、この手紙を書きながらも、僕は、生れてから始めて経験するほどの、胸の高鳴りを覚えつゝあるのだ。君が結婚しようとする雪江さんは、僕もまんざら知らぬ仲ではないから、君たちの永遠の幸福を祈ってやまぬ僕は、こゝに君に向って恭(うや/\)しく恋愛曲線を捧げ、以て微意を表したいと思うのである。君は、僕のような武骨一点張りの科学者が、恋愛などという文字を使用することにすら、滑稽を覚えるかも知れぬが、然(しか)し僕は君の考えて居るほど「冷血」ではなく、多少の温かい血は流れて居るつもりだ。流れて居ればこそ、君の結婚に対して無関心では居られなくなり、頭脳を搾って、縁起のよかるべき名をもった、この贈り物を考え出したのである。
夢判断
寺田寅彦
友人が妙な夢を見たと云って話して聞かせた。それは田舎の農家で泊った晩のことである。全身がしびれ、強直(こうちょく)して動けなくなったが、それが「電気のせい」だと思われた。白い手術着を着た助手らしい男がしきりにあちこち歩き廻ってそれを助けてくれようとするのだが、一向利目(ききめ)がないので困り果てたところで眼がさめたのだという。さめて見たら枕が無闇(むやみ)に固くて首筋が痺(しび)れていたそうである。
ピタゴラスと豆
ピタゴラスと豆
寺田寅彦
幾何学を教わった人は誰でもピタゴラスの定理というものの名前ぐらいは覚えているであろう。直角三角形の一番長い辺の上に乗っけた枡形(ますがた)の面積が他の二つの辺の上に作った二つの枡形の面積の和に等しいというのである。オルダス・ハクスレーの短篇『若きアルキメデス』には百姓の子のギドーが木片の燃えさしで鋪道(ほどう)の石の上に図形を描いてこの定理の証明をやっている場面が出て来るのである。また相対性原理を設立したアインシュタインが子供のときに独りでこの定理を見付けたとかいう話が伝えられている。この同じピタゴラスがまた楽音の協和(ハーモニー)と整数の比との関係の発見者であり、宇宙の調和の唱道者であったことはよく知られているようであるが、この同じピタゴラスが豆のために命を失ったという話がディオゲネス・ライルチオスの『哲学者列伝』の中に伝えられている。
寺田寅彦
幾何学を教わった人は誰でもピタゴラスの定理というものの名前ぐらいは覚えているであろう。直角三角形の一番長い辺の上に乗っけた枡形(ますがた)の面積が他の二つの辺の上に作った二つの枡形の面積の和に等しいというのである。オルダス・ハクスレーの短篇『若きアルキメデス』には百姓の子のギドーが木片の燃えさしで鋪道(ほどう)の石の上に図形を描いてこの定理の証明をやっている場面が出て来るのである。また相対性原理を設立したアインシュタインが子供のときに独りでこの定理を見付けたとかいう話が伝えられている。この同じピタゴラスがまた楽音の協和(ハーモニー)と整数の比との関係の発見者であり、宇宙の調和の唱道者であったことはよく知られているようであるが、この同じピタゴラスが豆のために命を失ったという話がディオゲネス・ライルチオスの『哲学者列伝』の中に伝えられている。
世界怪談名作集 鏡中の美女
コスモ・フォン・ウェルスタールはプラーグの大学生であった。
彼は貴族の一門であるにもかかわらず、貧乏であった。そうして、貧乏より生ずるところの独立をみずから誇っていた。誰でも貧乏から逃がれることが出来なければ、むしろそれを誇りとするよりほかはないのである。彼は学生仲間に可愛がられていながら、さてこれという友達もなく、学生仲間のうちでまだ一人も、古い町の最も高い家の頂上にある彼の下宿の戸口へはいった者はないのであった。
彼は貴族の一門であるにもかかわらず、貧乏であった。そうして、貧乏より生ずるところの独立をみずから誇っていた。誰でも貧乏から逃がれることが出来なければ、むしろそれを誇りとするよりほかはないのである。彼は学生仲間に可愛がられていながら、さてこれという友達もなく、学生仲間のうちでまだ一人も、古い町の最も高い家の頂上にある彼の下宿の戸口へはいった者はないのであった。
人口論 AN ESSAY ON THE PRINCIPLE OF POPULATION トマス・ロバト・マルサス Thomas Robert Malthus
マルサス『人口論』の第一版と第二版との間に大きな差異があることは、どの本にも書いてあり誰でも知っている。しかしその第二版以後がどうかということになると、余りはっきりしていないようである。しかし実際は、『人口論』はマルサスの生きている間に六版を重ねており、その各々にはいずれも訂正または増補が行われているのであって、同一の版本は一つもないのである。もちろん第二版の訂正増補が最大であるが、これに次いでは第三版及び第五版のそれである。そして第四版及び第六版はその各々の前の版の再刻と普通には称せられているが、それでさえ実は修正が加えられているのである。
赤ずきんちゃん
赤ずきんちゃん
ROTKAPPCHEN
グリム兄弟 Bruder Grimm
楠山正雄訳
むかし、むかし、あるところに、ちいちゃいかわいい女の子がありました。それはたれだって、ちょいとみただけで、かわいくなるこの子でしたが、でも、たれよりもかれよりも、この子のおばあさんほど、この子をかわいがっているものはなく、この子をみると、なにもかもやりたくてやりたくて、いったいなにをやっていいのかわからなくなるくらいでした。それで、あるとき、おばあさんは、赤いびろうどで、この子にずきんをこしらえてやりました。すると、それがまたこの子によく似あうので、もうほかのものは、なんにもかぶらないと、きめてしまいました。そこで、この子は、赤ずきんちゃん、赤ずきんちゃん、とばかり、よばれるようになりました。
ROTKAPPCHEN
グリム兄弟 Bruder Grimm
楠山正雄訳
むかし、むかし、あるところに、ちいちゃいかわいい女の子がありました。それはたれだって、ちょいとみただけで、かわいくなるこの子でしたが、でも、たれよりもかれよりも、この子のおばあさんほど、この子をかわいがっているものはなく、この子をみると、なにもかもやりたくてやりたくて、いったいなにをやっていいのかわからなくなるくらいでした。それで、あるとき、おばあさんは、赤いびろうどで、この子にずきんをこしらえてやりました。すると、それがまたこの子によく似あうので、もうほかのものは、なんにもかぶらないと、きめてしまいました。そこで、この子は、赤ずきんちゃん、赤ずきんちゃん、とばかり、よばれるようになりました。
賢者の贈り物 オー・ヘンリー作
1ドル87セント。それで全部。しかもそのうち60セントは小銭でした。小銭は一回の買い物につき一枚か二枚づつ浮かせたものです。乾物屋や八百屋や肉屋に無理矢理まけさせたので、しまいに、こんなに値切るなんてという無言の非難で頬が赤くなるほどでした。デラは三回数えてみました。でもやっぱり1ドル87セント。明日はクリスマスだというのに。
イギリス海岸
イギリス海岸
宮沢賢治
夏休みの十五日の農場実習の間に、私どもがイギリス海岸とあだ名をつけて、二日か三日ごと、仕事が一きりつくたびに、よく遊びに行った処(ところ)がありました。
それは本たうは海岸ではなくて、いかにも海岸の風をした川の岸です。北上(きたかみ)川の西岸でした。東の仙人(せんにん)峠から、遠野を通り土沢を過ぎ、北上山地を横截(よこぎ)って来る冷たい猿(さる)ヶ石(いし)川の、北上川への落合から、少し下流の西岸でした。
宮沢賢治
夏休みの十五日の農場実習の間に、私どもがイギリス海岸とあだ名をつけて、二日か三日ごと、仕事が一きりつくたびに、よく遊びに行った処(ところ)がありました。
それは本たうは海岸ではなくて、いかにも海岸の風をした川の岸です。北上(きたかみ)川の西岸でした。東の仙人(せんにん)峠から、遠野を通り土沢を過ぎ、北上山地を横截(よこぎ)って来る冷たい猿(さる)ヶ石(いし)川の、北上川への落合から、少し下流の西岸でした。
詩集・山羊の歌
詩集・山羊の歌
中原中也
中原中也
イズムの功過
イズムの功過
夏目漱石
大抵のイズムとか主義とかいうものは無数の事実を几帳面(きちょうめん)な男が束(たば)にして頭の抽出(ひきだし)へ入れやすいように拵(こしら)えてくれたものである。一纏(ひとまと)めにきちりと片付いている代りには、出すのが臆劫(おっくう)になったり、解(ほど)くのに手数がかかったりするので、いざという場合には間に合わない事が多い。大抵のイズムはこの点において、実生活上の行為を直接に支配するために作られたる指南車(しなんしゃ)というよりは、吾人
夏目漱石
大抵のイズムとか主義とかいうものは無数の事実を几帳面(きちょうめん)な男が束(たば)にして頭の抽出(ひきだし)へ入れやすいように拵(こしら)えてくれたものである。一纏(ひとまと)めにきちりと片付いている代りには、出すのが臆劫(おっくう)になったり、解(ほど)くのに手数がかかったりするので、いざという場合には間に合わない事が多い。大抵のイズムはこの点において、実生活上の行為を直接に支配するために作られたる指南車(しなんしゃ)というよりは、吾人
一夜
一夜
夏目漱石
「美くしき多くの人の、美くしき多くの夢を……」と髯(ひげ)ある人が二たび三たび微吟(びぎん)して、あとは思案の体(てい)である。灯(ひ)に写る床柱(とこばしら)にもたれたる直(なお)き背(せ)の、この時少しく前にかがんで、両手に抱(いだ)く膝頭(ひざがしら)に険(けわ)しき山が出来る。佳句(かく)を得て佳句を続(つ)ぎ能(あた)わざるを恨(うら)みてか、黒くゆるやかに引ける眉(まゆ)の下より安からぬ眼の色が光る。
夏目漱石
「美くしき多くの人の、美くしき多くの夢を……」と髯(ひげ)ある人が二たび三たび微吟(びぎん)して、あとは思案の体(てい)である。灯(ひ)に写る床柱(とこばしら)にもたれたる直(なお)き背(せ)の、この時少しく前にかがんで、両手に抱(いだ)く膝頭(ひざがしら)に険(けわ)しき山が出来る。佳句(かく)を得て佳句を続(つ)ぎ能(あた)わざるを恨(うら)みてか、黒くゆるやかに引ける眉(まゆ)の下より安からぬ眼の色が光る。
ラピンとラピノヴァ
Lappin And Lapinova
ヴァージニア・ウルフ Virginia Woolf
2人は結婚した。ウェディングマーチが鳴り響いた。鳩が羽ばたいた。イートンのジャケットを着た小さな少年たちが米を投げる。フォックステリアがのんびりと道を横切る。そしてアーネスト・ソーバーンは花嫁の手をとり、誰一人知った顔のいない野次馬の群れをかきわけ、車へと導いた。ロンドンの人々は、いつもこうして集まっては他人の幸不幸を楽しむものだった。確かに、かれはハンサムに見えたし彼女はシャイに見えた。さらに米が投げられ、車が走り出した。
ヴァージニア・ウルフ Virginia Woolf
2人は結婚した。ウェディングマーチが鳴り響いた。鳩が羽ばたいた。イートンのジャケットを着た小さな少年たちが米を投げる。フォックステリアがのんびりと道を横切る。そしてアーネスト・ソーバーンは花嫁の手をとり、誰一人知った顔のいない野次馬の群れをかきわけ、車へと導いた。ロンドンの人々は、いつもこうして集まっては他人の幸不幸を楽しむものだった。確かに、かれはハンサムに見えたし彼女はシャイに見えた。さらに米が投げられ、車が走り出した。
月曜日か火曜日
月曜日か火曜日
Monday or Tuesday
ヴァージニア・ウルフ Virginia Woolf
怠惰に無関心に、翼でたやすく空間を震わせながら、その行くべき道を知り、アオサギは教会の上を空の下をゆく。白く遠く、おのずからおのずへと吸いこまれるように、空は、終わりなく隠してはあばき、動いては留まる。湖? その水際を消し去るがいい! 山? ああ、完璧だ――太陽が金色に染めるその斜面。滝を下る。それにはシダが、あるいは白い羽が、いつまでもいつまでも――
Monday or Tuesday
ヴァージニア・ウルフ Virginia Woolf
怠惰に無関心に、翼でたやすく空間を震わせながら、その行くべき道を知り、アオサギは教会の上を空の下をゆく。白く遠く、おのずからおのずへと吸いこまれるように、空は、終わりなく隠してはあばき、動いては留まる。湖? その水際を消し去るがいい! 山? ああ、完璧だ――太陽が金色に染めるその斜面。滝を下る。それにはシダが、あるいは白い羽が、いつまでもいつまでも――
利子率の価格にたいする影響
私が謹んで批判に供します論題は次のことであります。もし、他のことが同じままで、世界の指導的銀行がその利子率を、例えば通常の水準より1%下げて、それを数年にわたり維持するならば、すべての商品の価格は如何なる制限もなく上昇に上昇を続けることになるだろうということ、そして逆に、もし指導的銀行がその利子率を、例えば正常な水準より1%上げ、それを数年にわたり維持すると、すべての価格はゼロ以外にはなんの制限もなく、下落に下落を続けるだろうということであります。
所有権の起源
世の中に受け入れられている経済理論では、一般に所有権の根拠は所有者の生産的労働であると考えられている。このことは、反省することも問題にすることもなく、財産の法に適った基礎であるとされている。すなわち、有用なものを生産した者が、それを享受すべしというわけである。社会主義者と古典派経済学者とは経済学の考え方の両極端なのであるが、この点については本質的に意見が一致している。この点をめぐっては論争が起きたことがない。少なくとも今までのところは。すなわち、公理的な前提条件として受け入れられてきたのである。社会主義者にとっては、これは労働者は彼の労働の生産物をすべて受け取るべきであるという彼らの要求の根拠を与えるものである。古典派経済学者にとっては、おそらく、この公理は価値ある物であると同時に困難のもとでもあった。この公理のおかげで、彼らは、どのようにして資本家は彼の所有に帰すことになる財貨の「生産者」となるのか、かつその一方で、どのようにして労働者が彼の生産したものを得るということも真理として成り立つのか、ということを説明するという問題に際限なく悩まされ続けることになった。時折見られる創造的産業から完全に切り離された所有という事例は、正常な事態からの逸脱として受け取られ、取り扱われてきた。すなわち、それは撹乱要因のせいだというわけである。正常な状態では、富は受取り手の生産物に対する貢献に応じた比率で−もう少し適切な意味では、その貢献を原因として−分配されるという主要見解はほとんど問題にされることもなかった。
職業としての科学 (1919) マックス ウェーバー
職業としての科学 (1919)
マックス ウェーバー 著
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外的な条件 -- 大学の現状
あなた方は「職業としての科学」について話してほしいとのことです。わたしたち政治経済学者には学者としての習慣があり、ここでもそれにしたがおうと思うのですが、いつものことながら外的な条件からはじめることにします。この場合、次の質問からはじめましょう。具体的にいって、職業としての科学にとって必要な条件とは何でしょうか?きょうこの質問は、現実的、本質的に、次のことを意味します。大学での学術研究に職業として生涯身を捧げる決心をした大学卒業生に期待されるものとは何でしょうか?ドイツ特有の状況を理解するためにも、国外における条件との比較と理解からはじめる方がよいでしょう。この点、アメリカはドイツと好対照をなすので、まずはこの国に焦点をあわせましょう。
マックス ウェーバー 著
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外的な条件 -- 大学の現状
あなた方は「職業としての科学」について話してほしいとのことです。わたしたち政治経済学者には学者としての習慣があり、ここでもそれにしたがおうと思うのですが、いつものことながら外的な条件からはじめることにします。この場合、次の質問からはじめましょう。具体的にいって、職業としての科学にとって必要な条件とは何でしょうか?きょうこの質問は、現実的、本質的に、次のことを意味します。大学での学術研究に職業として生涯身を捧げる決心をした大学卒業生に期待されるものとは何でしょうか?ドイツ特有の状況を理解するためにも、国外における条件との比較と理解からはじめる方がよいでしょう。この点、アメリカはドイツと好対照をなすので、まずはこの国に焦点をあわせましょう。
ブタ飼い王子
ブタ飼い王子 ハンス・クリスチャン・アンデルセン 作 宮城麻衣 訳
むかし、まずしい王子さまがおりました。かれは自分の国を持っていました。その国はとっても小さかったのですが、だれかと結婚しようってくらいには十分な大きさでした。そして、その王子さまはある人と結婚したいと思っていたのです。
むかし、まずしい王子さまがおりました。かれは自分の国を持っていました。その国はとっても小さかったのですが、だれかと結婚しようってくらいには十分な大きさでした。そして、その王子さまはある人と結婚したいと思っていたのです。
絵のない絵本 クリスチャン・アンデルセン
絵のない絵本 クリスチャン・アンデルセン
第一夜
「昨晩」、わたしはお月さまが口にしたままを書いています。「昨晩、私はインドの雲ひとつない空にいて、私の顔がガンジス河の水面に映し出されていました。私の光は、下の方でまるでカメの甲羅みたいにこんもりしているバナナの太い絡み合う枝のあいだまで照らし出しました。そのこんもりとしているところから、カモシカのように身軽でイブのように美しい、一人のインド人の娘が飛び出してきました。このヒンドゥーの娘は立ちすくんでいて、見た目は軽やかでとても美しく、それでいてまわりの闇からははっきりと目立ちました。彼女の繊細な表情から、どうしてここにきたかを読み取ることが出来ます。下をはう、とげだらけの植物が彼女のサンダルを破りましたが、そんなことには全然かまわず彼女は先へといそぎました。乾きをいやすために河へとやってきたシカは、彼女が手にもえさかる炎をもっていたので、びっくりして飛びのきます。彼女はゆらぐ炎が消えないように手でおおっていましたから、その細い指先には血管がすけてみえました。河のそばまで降りてくると、炎が水面に映りました。映った炎は河の流れにそって流れていきます。炎は前後に大きくゆらいで、今にも消えてしまいそうでしたが、まだ燃えつづけてしました。少女の黒くかがやける瞳は、長いシルクのようなまつげで半分かくれていましたが、真剣なまなざしで河に映った炎を追っています。彼女は知っていました。もし見えている限り炎がもえつづけていれば、彼女のいいなづけはまだ生きているということを。ただもし炎がとつぜん消えてしまえば、彼は死んでしまったと。炎はしっかり燃えつづけ、彼女はひざまづき祈りました。すぐわきの草のなかには斑点のある蛇がいましたが、彼女はそんなことは気にかけません。彼女が考えていたのは、インドの神様といいなづけのことだけでした。「生きてる」 彼女はよろこびのあまり叫びました。「生きてるのよ」 山々からはこだまがかえってきます。「生きてるのよ」
第一夜
「昨晩」、わたしはお月さまが口にしたままを書いています。「昨晩、私はインドの雲ひとつない空にいて、私の顔がガンジス河の水面に映し出されていました。私の光は、下の方でまるでカメの甲羅みたいにこんもりしているバナナの太い絡み合う枝のあいだまで照らし出しました。そのこんもりとしているところから、カモシカのように身軽でイブのように美しい、一人のインド人の娘が飛び出してきました。このヒンドゥーの娘は立ちすくんでいて、見た目は軽やかでとても美しく、それでいてまわりの闇からははっきりと目立ちました。彼女の繊細な表情から、どうしてここにきたかを読み取ることが出来ます。下をはう、とげだらけの植物が彼女のサンダルを破りましたが、そんなことには全然かまわず彼女は先へといそぎました。乾きをいやすために河へとやってきたシカは、彼女が手にもえさかる炎をもっていたので、びっくりして飛びのきます。彼女はゆらぐ炎が消えないように手でおおっていましたから、その細い指先には血管がすけてみえました。河のそばまで降りてくると、炎が水面に映りました。映った炎は河の流れにそって流れていきます。炎は前後に大きくゆらいで、今にも消えてしまいそうでしたが、まだ燃えつづけてしました。少女の黒くかがやける瞳は、長いシルクのようなまつげで半分かくれていましたが、真剣なまなざしで河に映った炎を追っています。彼女は知っていました。もし見えている限り炎がもえつづけていれば、彼女のいいなづけはまだ生きているということを。ただもし炎がとつぜん消えてしまえば、彼は死んでしまったと。炎はしっかり燃えつづけ、彼女はひざまづき祈りました。すぐわきの草のなかには斑点のある蛇がいましたが、彼女はそんなことは気にかけません。彼女が考えていたのは、インドの神様といいなづけのことだけでした。「生きてる」 彼女はよろこびのあまり叫びました。「生きてるのよ」 山々からはこだまがかえってきます。「生きてるのよ」
